王家の星座 サンプル
| ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して 発行しています。( http://www.mag2.com/ ) FJ5-novel 王家の星座 Romance of cassiopeia 発行 FJ5 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ |
| 第○話 −２００１年２月１日− |
滋賀県草津市、九条食品工場管理室。室長の藤原則之は、バイオン製薬工業の社員数名と ディスプレイを見ていた。二つの会社は、今春合併する。合併後、則之はバイオン京都本社研究 所に配属される。この日は、研修を兼ねたネットミーティングの予行演習が行われていた。 午前十一時、バイオン東京本社の情報処理室からメッセージが届いた。内容は、営業部第三課の 中山課長から、則之宛の通信だった。本日、京都出張、京都駅着十八時五十分。 「えらい、急な出張やな。」 中山課長は、亡きバイオン製薬中山常務の長女である深紀と結婚して、中山の姓を受け継いだ。 則之の妻、夕紀は常務の次女。中山課長は、則之の義兄である。 新幹線は、定刻に到着した。 「お久しぶりです。」 「則之君、出迎えありがとう。正月は、合併のことが忙しくて、会えなかったなあ。お義母さんは、 元気かな。」 「はい、元気ですよ。」 二人を乗せたタクシーは、烏丸通りを北へ向かった。今出川通りを過ぎたあたりから、雪が降り出し た。中山は、ちらつく雪を見て言った。 「雪か。」 「はい、ここ数日、冷え込みましたから、研究所の近くは、積もっています。」 則之の自宅では、妻の夕紀、九歳になる娘の夕美が出迎えた。家に上がった中山は、まず仏壇に 手を合わせた。 「まあ、寒い中をご苦労様。」 義母の澄子は、そう言って中山の横に座った。中山は、そっと桐の箱を差し出した。箱には、和菓子 「恩双堂」の文字。恩双堂とは、バイオン製薬と九条食品が合併を記念して立ち上げられた和菓子の ブランドである。バイオンの保存技術と九条食品の加工技術を応用して作られた最初の和菓子は、 澄子が好きな柿ようかんだった。 澄子は、 「良い柿の香り。」 そう言って仏壇に供えた。孫娘の夕美が、澄子の隣に座った。ようかんの甘い香りに誘われたようだ。 夕美は、桐の箱を覗き込んで言った。 「これ、なんて読むの。」 澄子は、箱を手元に置いて言った。 「む、そ、う、どう。むそうどう、と読むのよ。バイオン製薬は、恩双種苗という会社だったの。それが、京都 の横山薬品という会社とくっついた。それから、バイオン製薬という名前になったのよ。ちょうど、夕美の お母さんとお父さんが出会った頃ね。そして、今度は九条食品とくっつくのよ。」 「ふうん、おいしいの。」 この日は、中山が来るのを待っていたために、いつもより夕食が遅れていた。それを察した中山は、夕美 にお年玉袋を手渡した。 「ようかんは、ご飯の後で食べよう。はい、夕美ちゃん。」 「おじさん、ありがとう。」 中山は、もう一つお年玉袋を取り出した。それを見た夕美は、奥を指差した。 「浩太は、庭でイカリとなんかしてる。」 則之は、庭に面した窓を開けた。夕美の弟、七歳の浩太は、雑種犬のイカリと犬小屋を覗き込んでいた。 庭に出た則之は、浩太を呼んだ。 「浩太、何をやってるのや。おじさんが来てる。挨拶せんか。」 浩太は、にこりと笑って言った。 「お年玉や。」 イカリは、そろそろと犬小屋に入った。浩太は、則之に言った。 「あのなあ、猫がいるねん。」 浩太が言うには、イカリと散歩から帰ったとき、小屋の中でシャム猫が寝ていたらしい。イカリが小屋に 入っても、その猫は眠ったままだった。 「まあ、ええ。浩太、ご飯食べよ。そのうち、出てくるやろ。」 |
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