星の砂

                            ９
                    地球からの贈り物

　アスレ島の最南端に位置する岩山は、真夜中だというのに中腹から頂上にかけて、灯
りをもった人々が夜空を見上げていた。頂上の展望台では、シャンドウと賢者が望遠鏡
で空を見ていた。
「シャンドウ様、もう見えなくなりましたな。」
　いつまでも空を見ているシャンドウの所へ、老年の女性がゆっくりと近づいてきたと
き、賢者は驚いたが声を出さず展望台の片隅に下がっていった。
　その女性の気配を感じてもシャンドウは、なにも反応せず星空をみつめていた。重苦
しい空気を感じて、賢者が声をだした。
「シャンドウ様、私はこれで失礼します。」
　その言葉にシャンドウと女性が同時に振り向いて言った。
「ここにいても、べつにかまわないわよ。」
「ここにいても、べつにかまわない。」
　シャンドウは、その女性に毅然と言い放った。
「議長の娘シャンドウは、わたしなのよ。下がっていて。」
　その女性は、母親のような口調で答えた。
「あなたは、苦しんでいる。その苦しみが分かるのは、わたしだけ。」
　賢者の姿は、すでに展望台から消えている。
「恋をしているのでしょう。」
「それは・・・・。」
「いいのよ、使命が大事なのはわかる。わたしが娘だったときとは、状況が違う。ヌク
レルは、外界と接触をしてこなかった。民族を守るための戒律が、今その真価を問われ
ている。その戒律が破られた今こそ、シャンドウの本当の力を使うときなのよ。チェン
リーは、きっとあなたを助けてくれるわ。」
「私にどうしろと言うの。」
「この危機が去ったら、あなたはシャンドウという名の女性に戻りなさい。自分に正直
に自由に生きなさい。彼の登場は、ヌクレルに新しい価値観を与えるでしょう。自由と
いう名の地球からの贈り物を素直に受けなさい。」
　シャンドウは、この世に生を受けてから一度も自由を求めてこなかった。たしかに他
の人々より恵まれた生活を与えられいた。だが、大人になるまで宮殿から出ることを禁
じられていた。それが、当然だと思っていた。大勢の賢者から知識や学問を教えられ、
より賢く優しく美しくなるために学んできた。ヌクレルの指導者として誰もが認めるよ
うになるために。そして、健康体を維持し新しいシャンドウを生むために。
　だが、第一議長の頻発するエラーがシャンドウを変えた。完全無欠だと信じていたも
のが崩れさったのだ。そして、不思議な夢。
「チェンリー。」
　シャンドウは、一言つぶやいき展望台の出口に向って歩きだし振り向きもせずに言っ
た。
「使命を果たす、いまの私に大事なもの。ヌクレルを守ること。」
　そして、出て行った。