星の砂

                            ３
                        バーミリオン

　太陽系開発委員会の委員長室では、タイリー委員長が息子であり最も信頼する部下で
あるチェンリーの報告通信を補佐官のタルヤと見ながら話していた。
「この報告では、三百光年の彼方に人類に似た種族がいて、おまけに武力衝突をしてい
るということだな。」
　タルヤは、委員長室の窓に目を移して言った。
「はい、戦争状態だとは以外でしたね。しかし、知的生命体の存在は証明されたわけで
す。」
「バーミリオンの発進だな。」
「発進準備は、完了しています。」
　タイリーは、空中に向かって言った。
「イリア01、第十六小惑星基地に暗号通信。バーミリオン。つづいて、ブーメにも暗号
通信、宛先はター2045。ファイル5開放。」
　空中から、機械的な声が答えた。
「了解。送信終了。」

　太陽の光りを背に巨大な宇宙船が、偽装された小惑星からその姿を表わした。全長３
キロに及ぶ船は、小型といってもブーメと同じくらいの大きさの四隻の宇宙船に牽引さ
れながら、星の窓に向かって動きだした。細長いキャンドルを思わせる船体は、太陽が
放つ光りの筋のように白く美しい姿だったが、その存在を知る人間は、ごくわずかでチ
ェンリーさえも知らされてはいなかった。
　その巨大宇宙船バーミリオンの存在をチェンリーに伝えたのは、人間ではなくコンピ
ュータだった。
　バーミリオンが発進してまもなく、ブーメのコンピュータがチェンリーに隠されてい
た命令を告げた。
「ファイル5、解除します。」
　突然ター2045が話しだしたのでチェンリーは、驚いて答えた。
「ター2045、なんだ急に。」
「タイリー委員長の指示がありました。では、ファイル5を開放します。」
「ああ、いいだろう。」
「ブーメは、エウロパへの航行を中止。みちの惑星に接近、バーミリオンの到着まで情
報収集。エウロパ用の物資の使用を許可する。」

「どういうことだ、説明しろ。」
「船長室のファイルを開けて下さい。」
　ター2045は、それっきり返答をしなくなった。そこで、チェンリーは自室に戻り、自
分だけのシステムを始動させた。
 「マリ、どういうことだ。」
　チェンリーの問いかけに答えたのは、ター2045の声ではなく、チェンリー個人用のシ
ステムファイルだった。
「こんばんは、チェン。いいことを教えて・あ・げ・る。大事なことだから、こころし
て聞いてちょうだい。もう、ずいぶん前だけど。未知の通信、通信というより放送を受
信したのよ。それは、さっき見た映像より弱くて、荒いものだったけど。概知の文明で
はなく、まったく知らない文明だということは理解できたの。でもね、その発信源が不
明だったけど、いまから半年ほど前に偶然に突き止めたのよ。そして、あなたのお父様
の命令で、太陽系外探査用宇宙船バーミリオンを改装して、その発信源の探査計画が進
められたの。」
「わかったよ、ブーメの本来の任務は、バーミリオンのための情報収集だったんだな。
地球連邦政府に知られないために、乗組員にも教えられなかったんだ。」
「そうよチェンリー。あなたも知ってのとおり、地球の人口は八十億。地球外に生活し
ている人間は、十億人に達したわ。宇宙にいる十億人が生産したものを、地球に送り地
球はなにも生産しないで、まるで公園のような環境を維持しているわね。そして、宇宙
で生まれた世代は、そのことを当然のように考えて、疑問すら感じないように教育され
ているわ。でも、あなたのお父様が率いる太陽系開発委員会は、宇宙に住む人類を、も
っと自由に生きられるように考えていた。自分たちで生産したものを自分たちで使い、
もっと良い生活ができるようにと。」
「ターちゃん、つまり違う太陽系の惑星に生活を移すというのか。」
「そうじゃないわ。地球連邦政府の影響を受けない環境に宇宙で生まれた人類を移し
て、その人達のための生活環境、古い言葉で言えば、国をつくることなのよ。」