星の砂

                           ２１
                    　 カイダル

　チェンリーの亡骸を乗せたカプセルは、星の窓内部に残る戦火から遺体を守るために
タイトライジ中央に超低温保存され故郷の太陽系へ送り出された。そして、見送るシャ
ンドウに第一議長とは違う声が話しかけてきた。
「シャンドウ、私の名はカイダル。救い主と呼ばれている種族の生き残り。正確に言う
ならば、救い主の記憶だが。私の種族は、凍りついた地球を訪問したときに、その平和
主義ゆえに絶滅の危機に瀕したヌクレルを保護した。ヌクレルは、飢えや逃走から解放
され、みごとに文明の花を咲かせた。その独創的な文明は、我々のそれを遥かに超えて
いき、ついに我々の居場所を無くしてしまった。その栄華は、銀河系に際限無く広がる
かと思われた。」
　シャンドウが、カイダルの言葉を遮った。
「まって、救い主の目的は、何だったの。」
「我々は、物質文明の極致に達した。弱い肉体から解放された生命体、それが我々の姿
だった。強靭な機械に守られた頭脳。そう言ったほうが、わかりやすいだろう。半永久
的な寿命を持った哀れな生命体だ。生存のための戦いもなく、愛しあうことも失った。
生きる意味を失ってしまった。ヌクレルを助けたのは、他の生命体を滅ぼしてまで生存
しようとしなかったことに希望を持ったのだ。ヌクレルは、物質的な繁栄ではなく、心
の繁栄を目指すだろうと考えたのだ。そして、我々はヌクレルが十分に文明を築きあげ
たのを見て、彼等に銀河系を明け渡した。我々が去ったあと、星の窓を利用して平和的
に勢力を伸ばした。だが、皮肉にも星系の惑星を破壊すると言う侵略行為に出たとき、
彼等自身が作った機械の手によって反撃をされることになってしまった。」
　シャンドウは、大きくため息をつき、
「あなたがたは、助けたヌクレルに追い出され・・・えっ、去ったと言ったわね。じ
ゃ、救い主は絶滅したわけじゃないのね。どこに行ったの。」
「我々は、空間に意思を保存する方法を見つけた。物質に干渉することをやめたのだ。
だから、救い主は今もここにいる。だが、意思を伝えるために私だけが物質として存在
することになった。シャンドウとチェンリー、二人の行動に人類への微かな希望を感じ
た。いま一度、心の繁栄を目指して欲しい。第一議長を君に任せる、そして、平和な世
界を築いて見せて欲しい。限りある命の美しさを究めて欲しい。それが、救い主の希望
だ。私は、君達が住む惑星の軌道上で観察することにする。後は、第一議長を使って新
しい世界を作っていくのだ。もう一つ言いたいことがある。それは、地球人類がチェン
リーを発見したとき、彼を復活させることができるかもしれない。そこまでの技術力を
地球人類が持ったときに、はじめてチェンリーの亡骸が発見できるようにしてある。」
「ほんとうにチェンリーが、生き返るの。あと何年待てばいいの。」
「地球人類が、絶滅するほどの戦争をしなければ、千年後だと予測している。」

　そこで、過去の映像が消え元の淡い光りの部屋に戻った。チェンリーとシャンドウ
は、千年のときを超え再会した恋人。それは、二人とも全く知らないことだった。クロ
ーンとして生き存えたシャンドウだったが、このことは知らされていなかった。もっと
も、チェンリーの驚きはシャンドウの比ではなかった。
「カイダル、どういうことだ。ヌクレルの歴史は、これでわかった。だが、私は私で、
今の映像にあったチェンリーとは別人だ。わざと今の映像を私に似せて作ったのか。」
「チェンリー、君が信じないのも無理ない。ブーメに有った君の記録では、西暦2250年
に地球でに生まれ、そして、幼い頃母親を亡くした。あとは、父に育てられた。だが、
どうして母が亡くなったのだ。」
「それは、事故だと聞いている。」
「メトリーを再生させることが出来たのだろう。では、何故、君の母は復活出来なかっ
たのだ。君の父親は、かなり高い地位に居たにもかかわらず。」
「それは・・・・。」
「チェンリー、まだある。シャンドウの夢を何度も見ただろう。あれは、夢ではない。
内耳に埋め込まれた通信機に脳が影響を受けていたのだ。調べてみれば、すぐにわかる
はずだ。君がシャンドウの夢を見だした時期とシャンドウが、第一議長を通じて私に助
けを求めた時期が一致するだろう。私は、シャンドウの祈りを地球に送信した。それ
が、君に届いたのだ。そして、君が見た夢は、最後に見たシャンドウの姿だった。君の
脳は、父に植え付けられた仮の記憶と真の記憶とを混同して夢を見せた。チェンリー、
君はヌクレルを救ったチェンリーだ。」